しみじみしたこと

solo380

2008年08月22日 00:19

高齢のおばあさんとお話しする機会がありました。

辛い事や悲しい話が嫌いな人は読み飛ばして下さい。m(_ _)m
ガラス越しの日の射す明るい部屋です。
彼女は目が悪く、耳もかなり遠い方で、耳元で話さないと聞こえません。
彼女は車椅子に座り、僕は隣に椅子を置いて並んで話していました。
お話をするうちこんな話をしてくれました。


『目が悪くなると殆んど何も判らないけど、目の前に人が通る気配だけわかります。それと子供が良く見えるんです。ほらそこに来てますよ。』


彼女が指し示すのは僕の右斜め前・・・ガラス越しの日の光が輝いています。
子供さんの顔はわかりますか?と問うと


『顔はわからないんやけど・・・男の子です。』


たぶん彼女は認知症がおありです。それでも受け答えはしっかりされています。


『用は無いからあっちへお行きって言うといなくなるんやけど、すぐまた傍に来るんですよ。ほらまた来ましたよ。』


今度は僕の膝のすぐ近くを指差します。彼女が指し示すあたりを見つめますが、僕には何も見えません。また感じることも出来ません。見えるのは日の光だけです。


『戦争の時にね。チフスが流行って・・・5歳だった長男が、村で一番最初に病院へ行って一番最初に戻ってきました・・・。綺麗な男の子だったんですよ。村のみんなが褒めてくれてたんですよ。』


今、ここに何人ぐらい来てるんですか?って聞いてみますが、彼女には聞こえないようでした。


『当時私は乳飲み子を抱えていたので、病院でも近寄らせてもらえませんでした。でもねその子が・・おかあさん、何で僕が傍に行っちゃいけないの?僕何もしてないよ。・・・って言うんです。私は乳飲み子を抱えて近寄れなかったんです。』


今なら助かってんでしょうね・・・って言うと


『せやねえ、でも一番に行って一番最初に帰ってきたんです。お医者さんから、あんたのとこが一番水場に近かったから一番やったんやろって言われました。賢い子やったんですよ。村のみんながそう言ってくれてたんですよ。』


この時期は辛い事を思い出しちゃいますね。でもお盆も過ぎたし、そろそろ帰られんじゃないですか?って言うと


『あの子達が?何処へ帰るの?』


・・・言葉に窮してしまいました。すかさず話題を変えて・・・大人の人は見えますか?って聞くと


『大人の人は見えません。子供しか見えないですね。ほら、また来ましたよ。』


やはり僕には見ることも感じることも出来ませんでした。
彼女と別れた後、怖いというより、悲哀と共にしみじみとした思いで考えてしまいました。
たぶん、彼女と僕以外にはその場には誰もいません。少なくとも僕にはそうでした。でも彼女にとっては違います。
戦後60年以上が経ち、認知症が彼女を襲っても、彼女の中には当時の辛い記憶が今も彼女を苦しめているように思えて・・・やるせない思いで帰ってきました。

北京オリンピック、女子ソフトボール金メダル!・・・目も耳も悪い彼女には無縁の世界です。彼女は一人、違う時間の流れにいました。


すみません、オチはありませんです。m(_ _)m

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